gdr_a07 2009/11/26 (Thu)

 シードラは、良い鴨にされているな、と溜息をつこうとして、ふと思い直した。
 勝てる相手に何度も勝負を挑むのは、確かに嫌らしい。だが、シャワーズとドククラゲという構成は、本当に楽に勝てる相手なのか。
 少女の言により見えてきた相手の像は、二匹ともフルアタックの殲滅力のみを追い求めた構成で、確かにえげつない。
 だが、こちらの二匹も守りに関しては相応のものであり、専守防衛に徹すれば易々と突破されることはない。その上シャワーズの種族的な特攻値を見れば、守りつつ撃破することも十分可能である。
 ただ鴨にしたいのであれば、草タイプや電気タイプを連れて来るだけでいいのだ。電気はともかく草タイプの調達は容易だし、即興の構成であってもタイプ相性は抜群のアドバンテージとなるだろう。敵がそれを用いないのはなぜだ。トレーナーの矜持、プライドというやつだろうか。
 ならばその少女の幼馴染はなぜ、繰り返し勝負を持ちかけ、繰り返し勝利をもぎ取って行くのだ。
「それにね、卑怯なの! お姉さんがすごいトレーナーでね、ずっと旅をしてるんだけど、沢山沢山きあいのタスキを送ってもらって、いっつもそれで勝つんだ」
 きあいのタスキ。体力満タン時に一撃確殺級のダメージを負った場合のみ、微かなHPで堪え瀕死を免れるアイテム。
 相当優秀なアイテムといえるが、とんでもなく貴重だ。一度使ったら破けてしまうというのが、それに拍車をかけている。
 なおさらわからない。なぜそんなアイテムを使ってまで、容易な勝利を挙げて満足するのだろう。
「あんなレアアイテム使われたら、負けるに決まってるよ……。
 ごめんね、シードラ、私弱虫だね」
「いや、その気弱さは、人間と会話できるという私の充足を損なうものではないよ。
 それに、どんなレアアイテムでも、それの有無だけで試合が決まってしまうかというと、そんなことはない」
 そうだ。どんなアイテムも一長一短。きあいのタスキの破壊力は凄まじいものだが、その分戦法に組み込むのは難しい。どれほど優秀なトレーナーでも、その力を常時十全に発揮できているわけではない。
「相手が何度も同じ戦法で来るというのなら、それを逆手にとってやればいい。
 きあいのタスキにだって弱点は存在するし、そこを突くのは難しいことでは」

 シードラは口を噤んだ。二対二の戦いで不安定なフルアタ構成、湯水のごとく消費されるきあいのタスキ、そしてシャワーズとドククラゲのパーティで一度も勝てない。
 きあいのタスキというレアアイテムのせいで、負けて当然、いかに相手の隙を突いて勝ちを取るかに向かっていた思考が、冷めていくのを感じた。それは興味や熱意の消失ではない。体の細い部分から湧き上がってくる、純然とした畏敬によるものだった。
「相手がきあいのタスキに頼った戦法ということはわかった。きあいのタスキは確かにレアアイテムだが、それが単純に思いつく中で最も効果が発揮されるのは、フルアタ同士のノーガードの殴り合いの中でだ。
 守り型二匹がここまで完封されるほどのアドバンテージではない」
 きあいのタスキにも勿論弱点がある。そもそも言ってしまえば、限定状況下で一ターン稼ぐ程度の能力でしかない。その一ターンすら稼げない場合もある。
「勝って当然、負けて当然ではないよ、これは。いつだって相手の勝利は綱渡りだったろうし、お前の敗北は紙一重だったはずだ。
 いいか、きあいのタスキは攻撃を受けた際にHPを1残すアイテムだ。優秀だな。
 だが、一度毒や火傷を負うだけでそのアドバンテージは無意味なものとなる。毎ターン微かなHPを失うこの状態異常にかかってしまえば、きあいのタスキなどただの布くずだ」
 驚愕に目を見開いた少女が嚥下するのを待ちながら、シードラはゆっくりと言葉を紡いだ。自分が抱いた相手への尊敬を少女にも共有して欲しかった。
「相手は二分の一の確率で毒タイプが出てくるという、すこぶる不利な状況で、きあいのタスキを活用する術をお前相手に磨いているんだ。決して安易な勝利を稼いでるわけじゃない。
 何がそうさせるのかはわからないが。執念か矜持か。……どんなトレーナーになりたいのか、伝わってくるよ。正直尊敬する。
 お前はどうする?」

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