gdr_a09 2009/11/30 (Mon)

 リリエが唐突に振りかぶった後、投げられた何かが自分のポケモンに直撃するのを見て、アイリは心底驚いた。
 相手トレーナーのポケモンに向かってモンスターボールを投げ、それを投げられたトレーナーが自らの手で叩き落とすというのは、少し前にテレビで流行ったジョークだ。それを現実に見ることはない。
 そもそも、ボールの製造を一手に引き受けるシルフカンパニーが、捕獲の重複が起こらないよう厳重なロックをかけているのだ。マナー違反、挑発、いくつかの単語が脳裏をよぎり、一瞬真っ白になったアイリだったが、ポケモンの前に落ちた残骸、空のカプセルを見て、すぐさま自分を取り戻した。
「リリエちゃん、どういうこと?」
 モンスターボールではなかった。だが、ポケモンバトルの明確なルール違反だ。自然と口調はきつくなる。
 だが、詰問じみたアイリの言葉をすり抜けるように、リリエは真っ向から答えた。
「えっと、今までのお礼、かなあ。それと、うちの新しい仲間があなたのことすごく気に入っちゃったの。なんていうかなぁ……とにかく、勝負しようよ!」
 道具と技の使用は互いに一度ずつ(ターン制)、そして、相手のポケモンに道具は使わない。
 相手のポケモンに道具を使ったこと、そして、バトルが始まる前に道具を使ったこと。
 通常ならば跳ね除けるべき試合だ。そもそも開始前にルール違反などすれば試合が始まるはずもない。
 だが、アイリはリリエと幼馴染と呼ぶべき関係で、意味もなくこのようなことをしないと知っていた。結局受けることにしたのは、使われた道具の問題で、
「相手のポケモンにスピーダーかけてどうするの? トリックルームじゃあるまいし」
 互いに手持ちのポケモンを熟知した間柄だ。使われたポケモンの試合中の速度を上げる道具は、敵に送る塩としか言いようがない。
「お礼だよ。私、アイリちゃんにいっぱい負けたけど、それって、アイリちゃんが勝つ姿を何回も見てきたってことなんだよね。
 あなたみたいなトレーナーになりたいと思ったし、なるって決めたの。だから、そのお礼」
 アイリはそう言い切ったリリエの表情に、知らないものを見た。
 随分長い間見てきた、常にリリエの端麗な容姿を損ねていた、臆病からのかげりを見失ったのだろうと、後で気づいた。

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